コラム

読み物から当事者理解を深める

こんにちは。みなさんは普段、当事者理解をどのように深めていらっしゃるでしょうか?
今回のコラムでは、発達障害・知的障害のかたの理解を深める参考になるかもしれない書籍の紹介をしたいと思います。

【目次】
1.ケーキの切れない非行少年たち
2.発達障害と呼ばないで
3.なおりはしないが、ましになる
4.まとめ

1.ケーキの切れない非行少年たち 宮口幸治(新潮新書)

著者は児童精神科医・臨床心理士で、児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務されていた方です。この本は三重県にある宮川医療少年院や女子少年院での勤務経験が元になっています。発行された当初話題になったので、読んだことがあるという方も多いかもしれません。コミック版も出ています。
刑務所の中にはかなりの割合で軽度知的障害者や境界知能を持った人たちがいると言われています。宮口氏は、「本来は保護しなければならない障害者が犯罪者に」なってしまっていると著書のなかで言っています。成功体験が少ないため自信が持ちにくく自己評価が低い、傷つきやすい存在である本来は大切に守ってあげなければならない、障害を持った子どもたちが、学校や社会で気付かれず適切な支援が受けられない。そればかりか、さらに虐待を受け、イジメ被害に遭い、最終的には加害者になってしまう。適切な支援が受けられていれば、法を犯さずに済んだかもしれません。
本の中に出てくる少年や少女たちは、普段私たちが関わっている方たちの姿とも重なるのではないでしょうか。私たち大人が子どもたちの将来を台無しにしてしまわないために、教育や支援を考えるヒントになるのではないかと思います。

2.発達障害と呼ばないで 岡田尊司(幻冬舎新書)

この本の著者は、精神科医で医学博士、作家であり、発達障害やパーソナリティー障害治療の第一人者の一人です。関連する著作も数多く出版されています。専門用語も多く出てきますが、分かりやすい文章で書かれているので、読みやすいと思います。
「発達障害」と診断されるケースが急増している、という書き出しで始まるこの本は、今から10年前(2012年)に出版されていますので、そこからさらに数は増えているであろうと思われます。(実際に教育現場ではADHDの子どもの割合は10年で6倍になっているそうです) 「発達障害」という言葉が急速に広まり、一般にも認知されるようになったことで、適切な診断と早期の手当の機会が得られるようになった一方、過剰診断や発達障害という視点にとらわれすぎることへのデメリットという弊害もみられるようになっている、と岡田氏は言います。「発達障害」の診断がつけられる中で、本来の発達障害というより養育環境要因による愛着の問題によって生じたものまでが、「発達障害」という診断に混入し始めたのというのです。安易に「発達障害」と診断されるケースが多いのではないか。もっと時間を掛けて診断されるべきものではないか。本来、子どもの発達や成長というものは、一様なものではないと岡田氏は言います。この本の中では、どのような関わり方が安定した愛着を育むことにつながるのかといったことも書かれています。私たちの存在も当事者にとっての環境要因のひとつと言えるのではないでしょうか。

3.なおりはしないが、ましになる カレー沢薫(小学館)

発達障害について、笑いながら一緒に学ぼう。あなたのその“つらい”気持ちも、読めばきっと“ましに”なる。
カレー沢氏は自称「業界一片付けが苦手な漫画家」。兼業作家生活を9年間続けていたが、いろいろあって退職。無職になった。というところからこの話は始まります。ADHD当事者である著者の、発達障害への気づき、検査、通院、同じ悩みを持つ人々との交流、ご近所問題といったあらゆるできごとが描かれています。ADHDと一口に言ってもいろいろなタイプがあり、困りごとも人それぞれであるということがよくわかります。カレー沢氏は、頭の中は常にソワソワしていて忙しくしているが、手や足は動かない(落ち着きがない等の行動には現れにくい)という特徴があるようです。実際には行動には出ないけれども、頭の中では目まぐるしく動いているので疲れ切ってしまうのだそうです。特に苦手なことをするときは考えるだけで疲弊してしまう。コミュニケーションも苦手で、以前は明るくてどちらかというと良くしゃべる方だったそうですが、思ったことを脈絡なく口にしてしまう等の特性から周囲から浮いてしまうことが多く、しだいに話せなくなっていったそうです。見た目には分かりにくく、理解されにくい特性があると言えます。ただ、興味のあることには集中力を発揮できることや、基本的に一人で行う仕事であること、独創的な物の見方が出来るなど、漫画家というクリエイティブな職業には合っているのではないでしょうか。
ちなみに、カレー沢氏の著作である「きみにかわれるまえに」という作品はペットを飼っている方、飼っていた方、飼いたい方におすすめの良書です。引くほど泣くので、公共の場で読むことはおすすめしません。

4.まとめ

いかがでしたでしょうか。もちろん、本に書かれていることがすべてではありませんし、全てが正しいわけではありません。時代によって変わっていくこともあるでしょう。私も日々アンテナを張り、アップデートしていきたいと思っています。みなさんの支援の参考になれば幸いです。