コラム

福祉と医療の間

垂坂山ブルーミングハウスの看護師となり1年がたちました。その中で私が思っていることをコラムにしていきたいと思います。

1.施設看護師として
2.同期との研修
3.まとめ~医療の目と福祉の目

1.施設看護師として

施設を受け持つ看護職は基本的に一人です。自分の判断があっているのか?この利用者さんにとって最適の支援なのか?医療の新しいエビデンスとずれがあるのではないか?迷うことが多いです。自分で、どうなんだろう、と意識できていることについては、一緒に働く支援員の皆さんにも相談できます。怖いのは、無意識に自分の中で、これで正しいと疑いもなく済ましていることです。一人で業務を進めているとそのまま常態化させてしまうし、この施設はこのやり方でやっていると教わり、なるほどそれならそれで合っていると思い込んでいると、それもまたベストではないこともあるでしょう。看護・医療の目だからこそできる提案と実施を続けていかなければなりません。

先日ある支援員さんが「ナースはいつもひとりで判断しなきゃならないんですね。怖くないですか?」とおっしゃったことがあります。ぎくっとしました。1年目の仕事で、多くは「これをやってください」と言われたことをこなすことで必死でした。しかし今は、支援への疑問や、自分への問いかけが出てくるようになりました。慣れからくるミスを防ぐための自分の慢心との戦いもあります。支援員さんは自分の判断を頼ってくれている、信頼してくれている、だからこそ、この声掛けを頂いたのだと思います。責任の重さに改めて気づかされたのです。

2.同期との研修

先日、当法人の職員で同程度の経験を積んだ職員対象の研修を受けました。ばらばらの職種の職員が集まりました。顔を見れば挨拶する機会はありますが、仕事が違うとなかなかお話をゆっくりする時間はないものです。当然ながら業務が違えば、悩みも違うはず。得てきた知見や感覚もそれぞれです。皆さんが学んでいることを教えていただき、頼れる人がたくさんいると感じました。「多職種連携」とは耳に胼胝ができるほど聞いてきた言葉ですが、同じ部屋に一堂に会し話し合う時間で感じた「なかま」感覚がうれしかったです。

意識レベルの確認ってどうすればいいの

私はその研修で、「意識レベルの調べ方」についてお話ししました。

通常の場面で意識レベルを確認する、となると、いわゆる「ジャパンコーマスケール」「グラスゴーコーマスケール」が有名です。よくテレビドラマで救急隊員が「意識レベル300です!」などと叫ぶシーンがありますが、あれです。目が覚めており、どれくらいはっきりしている状態であるか、を決まった物差しで表現し、客観的に共有するため数値で伝えます。例えば昼日中に、公園のベンチで座っている人が目を閉じていたら。単なるお昼寝かもしれませんが、何か脳や心臓などに異常が生じている可能性があります。そのため「もしもし?」と声をかけてみて、目を開けるのか?返事をするのか?(あ、寝とったわー。なんて応えてくれたらほっとするわけです。)

ところが「この人には知的障がいがあります、さあ意識レベルを調べてください。」と突然言われたらかなり難しい状況になります。そもそも、「名前を言ってください」と頼んで言える人なのか?自閉症があれば目を合わせることも期待できない場合もあるのです。一方で、利用者さんには時折てんかん発作を起こす方もいます。意識レベルを確認することはとても大事なのです。

結局は、(いつもの様子と違う)という、まったく数値化できない感覚に頼らざるを得ないわけです。

3.まとめ~医療の目と福祉の目

医療と福祉は、どちらも困っている人を助ける社会のシステムです。相互につながりが強く重なり合う場面も多いです。

医療は客観的な情報(血圧、検査、歩行の様子、食事を残した量など)を大切にします。それはどんな人が見ても同じように状況が分かるようにするためです。

福祉ではどうでしょう。数値で報告し合っている場面が少ないと感じます。よく登場する表現、「不調です」。いつもと違う機嫌の悪さ、叫んだり、荒々しい動作をしていたり、目が変だ、いつもより乱暴な言葉だ。こう思っているのではないか、など。日頃接している支援員さんじゃないとわからない違いを伝えています。

私は受診など医療の場で説明する役割なので、どうしても数値化できる情報に頼りがちになります。私は勤務上、入所者さんの24時間の生活の様子を直接見ることがありません。生活を支えている支援員さんの情報が頼りとなります。たいてい「こんな傷ができていた」「この時てんかん発作があったようだ」など、毎日の支援の場で気づいたことを伝えてくれることで私の役割が回り出すことが多いです。

支援員さんは、なんとなく受けた印象からスタートし、観察を深めて問題の解決につなげているように思います。長期間接してきたがゆえの理解があるからです。「意識レベルの変化」にも、よく気づいてもらっています。

どちらも大事な福祉の目、医療の目。利用者さんがより幸せに生きていくことができるよう両の目で見ています。