コラム

人間にとっての自立とは

今回のコラムでは、私たち生活支援員が、日頃の支援の中でよく使う「自立」について、考えていることをご紹介します。我々、生活支援員は、やもすれば、利用者の意思を尊重しすぎるあまり、利用者にとって最終的には不利益になるような選択を選んでいる場合があります。利用者にとって、支援員はどのような自立に対する価値観を持つべきか、を今回のコラムでは考察していきます。

【目次】

1.自立への問題提起
2.自立への考察
3.自立への言及
4.まとめ

1.自立への問題提起

私も学生を終え、社会人として働き、今となってはある程度、現場の取りまとめのような業務もするようになりました。なので、自分なりに社会生活を自立して過ごしてると考えている節があります。しかし、休日に何もせずゴロゴロと寝転がり、食事の準備をする気力もなく一日を無駄に過ごした時、しばしば、「自立」とは何を指しているのだろうと疑問に思うのです。一般的には、自立とは身体的自立、精神的自立、経済的自立、社会的自立の4つの自立が提示されています。また、辞書的な解釈を用いると、個人が社会において、あらゆる援助を必要とせずに社会生活を常態的に遂行することができる状態を指すのだろうと考えられます。ところで、あらゆる援助を必要としない状態とはいったいどういった状態なのでしょうか。人間が周囲の手助けなしで、一人で、食事、清潔、整理、仕事、余暇を行えることでしょうか。

2.自立への考察

私は1人で過ごしていると、わざわざ食事を作る気になれない時があります。前日の仕事の疲れを引きずっていたり、夜更かしをしすぎたりと理由は様々です。あまりにもお腹が空いた時には外食にでかけたり、それすら難しい時はコンビニなどで軽食を買ってやり過ごすことがあります。要は自分がするべき食事の準備を外部のサービスを利用する事で、生命維持に必要な食事を提供してもらっているわけです。例えば、21時30分に仕事が終わる日には、疲れて入浴をする気力にもならず、翌日に入ることがあります。なんだかんだ自分のプライベートの用事が立て込んで、十分に余暇という余暇が過ごせない時もあります。ちゃんと夜に眠ることをせず、できないことだらけの一週間が過ぎることもあります。その一方で、私は生活支援員として、利用者に対して、3食しっかり食事を食べましょうだとか、お風呂は毎日入りましょうだとか、休日はせっかくなのでどこかに出かけましょう等と声かけをしているのです。きっちりとした生活習慣を身につけ、健康的な生活を過ごし、長生きするためだとか、何かとそれらしい理由を並べて、「正しい生活の仕方」を自立支援を名目に利用者に伝えているのです。その場面だけを切り取ると何かとてつもない違和感を感じるのです。利用者は週5回しっかりと作業場に向かい、朝は6時には起床し、毎朝洗濯できる人は洗濯し、毎日3食しっかりと食べ、夜更かしもせず21時頃には就寝される方がいます。もちろん、そうした生活習慣は支援の成果とも捉えられるでしょう。一方で、ある程度、支援がないと上記のような生活習慣はなかなか実現しにくいのも事実です。支援者である私はそのような正しい生活習慣を身につけているかと言われると少々自信がありません。利用者のようにきっちり生活をしていないことがあることも事実だからです。だとすると、あらゆる援助を必要としない自分であることが、自立であるとは言い切れないのではないでしょうか。

3.自立への言及

つまり、自立の意味とは辞書の説明そのままの「他の援助なく自身で行動をすること」では説明が不十分な側面があるのではないでしょうか。今日はだらだらすると決める自分。夜更かししてしまった後にどうするか決める自分。そうした「人生の出来事において、自分自身が決める主体であること」が自立と言えるのではないでしょうか。

その人の主体性、自立の本質を考えると、我々、生活支援員の仕事は、何かしら正しい生活をするための支援が本質的な仕事なのではなく、日常において利用者が自己決定できるよう支える事が本質的な自立支援なのではないでしょうか。正しい事を正しいからという理由で押し付けるのではなく、利用者さんそれぞれの意思に基づいて、どういった生活をしていくのか、その生活の中の健康や安全、生命、人権、尊厳、その人らしさを守っていくことこそが私たちの仕事であり、我々が考えるべき自立なのではないか、と私は考えております。

4.まとめ

障害の程度や種別によっては、自発的な発語が見られなかったり、中々、周囲が本人の意図を汲み取りにくい状況で過ごされるかたもいらっしゃいます。そうした時こそ、家族だけでなく、我々、生活支援員が利用者の意思を汲み取っていく。そうして、その人らしい生活を組み立てるお手伝いをしていく。そのことを専門的にプロとして行なっていく。四日市福祉会はそのような人材を今後も育み、活躍させていきたいと考えております。

乱文ではございますが、今回のコラムは以上となります。

 

参考資料

厚生労働省HP:自立の概念等について (mhlw.go.jp)

ミルトン・メイヤロフ(著),田村真 (訳), 向野宣之 (訳)  「ケアの本質-生きることの意味-」 ゆみる出版 (1987/4/1)