「高齢者の生理的変化」から栄養について考える(たんぱく質編)
給与栄養目標量の設定や献立作成を担当している管理栄養士です。
当施設では、ご高齢の方も多数利用されており、ライフステージに見合った栄養とは何かということについて考えることがあります。加齢に伴い、栄養素の必要量や不足しやすい栄養素が変わってきます。今回のコラムでは、高齢者の生理的な変化から「たんぱく質の必要性」についてまとめさせていただきましたので、ご一読いただけると幸いです。
【目次】
1.フレイルとサルコペニア
2.加齢に伴うたんぱく質代謝の変化
3.高齢者の健康維持から考える、たんぱく質の必要性
4.まとめ
1.フレイルとサルコペニア
・最近少し痩せてきたかも?
・以前よりも疲れやすくなってきた気が…
・外に出るのが憂鬱に感じることがある。
・歩くのが遅くなったかも?
・握力が弱まったきた気がする。
年齢を重ねるにつれ、上記のような症状が表れたり、続いたりすることがあります。ご高齢の方であれば〝歳だから仕方ない〟という一言で片づけるには少し危険かもしれません。実は、上記の5つの項目は「フレイル(高齢による虚弱)」という状態の判断基準であり、3つ以上該当すれば、筋肉や心身ともに弱ってきており、様々な健康障害に陥りやすい状態にあるかもしれません。フレイルはこれが原因だというものではなく、加齢による身体の変化が複合的に重なり合うことで起こり得るものであると考えられています。
一方で、よく似た意味合いに「サルコペニア」というものがあります。サルコペニアとは〝筋力の低下や筋肉量の減少〟のことであり、フレイルが漠然とした定義であることに対してイメージしやすいかと思います。では、筋力の低下や筋肉量が減少すると何が問題なのでしょうか?ここが重要であり、筋力の低下や筋肉量が減少すると、身体を動かすという点において不都合が生じます。例えば、歩くにしても疲れやすくなったり、ペットボトルのキャップが開けられなかったり、普段から何気なく行っている動作が難しくなるということです。また、以前はできていたことができなくなると気分も落ち込みますし、外に出る機会も減ってしまいます。それだけに留まらず、運動量が減ればおなかが空きにくくなり、食事で十分な利用を摂ることができず、低栄養となり…。高齢者にとって、とても恐ろしい悪循環になっていることにお気づきでしょうか。この悪循環を「フレイルティ・サイクル」といいます。サルコペニアがきっかけでフレイルが引き起こされ、そのまま悪循環が続くというイメージですね。
2.加齢に伴うたんぱく質代謝の変化
フレイルとサルコペニアが密接な関係にあり、筋力の低下や筋肉量の減少がきっかけで悪循環を生む可能性が高い状態にある、ということを前章ではお話ししました。高齢者の生理的な変化を、もう少し掘り下げていくと「たんぱく質」という栄養素に辿り着きます。
たんぱく質は、人や動物の身体を構成する重要な栄養素の一つであり、身体の中では大半が筋肉(厳密には骨格筋)として存在しています。身体のたんぱく質=筋肉といっても過言ではありません。食べたものは一度分解(たんぱく質→アミノ酸)されて体内に取り込まれますが、その後、筋肉などの材料として、たんぱく質の合成が行われます。しかし、加齢に伴い、たんぱく質を合成する能力は低下していき、成人期と比べて筋肉を作る能力は著しく低下してしまうんです。これが、サルコペニアの主要な原因の1つだと考えられます。
3.高齢者の健康維持から考える、たんぱく質の必要性
ここまでを整理すると、〝フレイルやサルコペニアを予防するためには、筋肉量を維持することが不可欠だが、加齢に伴い筋肉量を維持するためのたんぱく質を合成する能力が低下している〟ということでした。フレイルやサルコペニアは、加齢による心身の変化が複合的に重なり合って引き起こされるため、これだけを行っていればよい、というものではありませんが、〝筋肉量を維持する〟という観点から考えると、食事の内容を見直すのも大切なことの一つです。筋肉の主要な材料はたんぱく質ですので、食事を工夫するならば、豚肉や鶏肉、魚、豆腐など、たんぱく質が豊富な食品を取り入れ、いつもより少しだけでも、たんぱく質を多く摂ることをお勧めしたいと思います。
私たち栄養士は給食を提供する際に、「日本人の食事摂取基準」という厚生労働省が発表している基準を参考にしています。これには、〝何の栄養素を〟〝どれくらい〟摂ればよいのか、という事が明記されています。日本人の食事摂取基準に記載されている「炭水化物」「たんぱく質」「脂質」のことを少しだけ紹介させていただくと、〝不足しないように、これくらいは摂りましょう〟という下限値、〝摂りすぎると生活習慣病になる可能性が高いので、これ以上は…〟という上限値が設けられ、バランスよく摂れるようになっています。(厳密にはパーセンテージで記載)しかし、たんぱく質だけには必要量という考え方について記載されているんです。その理由は、ライフステージによって変わるかもしれませんが、ここまでに記載したとおり、高齢者の〝筋肉量を保持する〟という観点から考えると、たんぱく質だけに必要量が設けられていることにも頷けますね。
4.まとめ
今回のコラムでは、高齢者の生理的な変化から、たんぱく質の必要性についてまとめさせていただきました。〝筋肉量を保持する〟というポイントに重点をおきながらお話ししましたが、決して炭水化物や脂質が劣っているということではありません。あくまでバランスが大切であり、それぞれの栄養素には、それぞれの役割があるということも知っておいていただきたいです。
また、食事の内容をどれだけ見直しても、それだけではフレイルやサルコペニアの対策として十分だとは言えません。食事は重要な要素の1つではありますが、生活習慣全体を見直すことで健康を保つことができると言えます。そのため、これを機に適度な運動量や睡眠、口腔内の健康など、他の要素についても興味を持っていただけると幸いです。
<参考・引用>
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書
令和5年「国民健康・栄養調査」の結果
「老人とカルシウム」江澤郁子
神戸市ホームページ 65歳の健康づくりのキーワードは「フレイル」
健康長寿ネット.サルコペニアとは
公立学校共済組合 中国中央病院。ビタミンDについて-特に骨粗鬆症として活性型ビタミンD製剤について–
公益社団法人 東京都医師会「フレイル予防」
一般社団法人 日本サルコペニア・フレイル学会





