コラム

知的障がい者のリハビリvol.1 知的障がい者と高齢化

理学療法士である私は、7年前から当法人に従事しています。以降、生活支援員、看護師、栄養士等と協力し合い、より良い支援が提供できるように日々取り組んでいます。当コラムでは、理学療法士として利用者の方々と関わる中で学び経験したこと(知的障害者の心身機能や運動指導するための工夫など)を述べていきたいと思います。私共と同じく知的障がい者の支援をされる方、特に心身・運動機能面に興味をお持ちの方にとって僅かばかりの参考になればと思います。未熟者ではありますが、これまでの経験をもとに、調査してきた資料や先行研究等の知見を踏まえてご報告いたします。

私が担当するコラムでは、今後の数回にわたり“知的障がい者の高齢化”をテーマにお送りします。当コラム執筆にあたり高齢化を最初のテーマとした理由は、近年の障害福祉分野において、高齢化が大きな課題となっているからであり、私が当法人に入職することになったきっかけでもあるからです。第一回となる今回は、「知的障がい者と高齢化」についてお伝えしたいと思います。

目次:

1.知的障がい者における高齢化の推移

2.知的障がい者の高齢化とは~いつから高齢化が始まるのか~

3.まとめ

1.知的障がい者における高齢化の推移

「知的障害者の高齢化対応検討会」(平成12年[2000年])にて、障害福祉分野における高齢化の問題が国レベルで検討されました。そのなかで「入所更生施設の利用者のうち、60歳以上の者の比率が1985年には2.3%だったものが、1999年には8.8%になるなど、高齢化が着実に進行している」1)と報告されており、すでに20年以上前から知的障がい者分野での高齢化が問題視されていたことがわかります。その後の高齢化の推移は「全国知的障害児者施設・事業実態調査報告書」2)によって知ることができます。施設利用者のうち60歳以上が占める割合は、平成23年度が12.9%、令和元年度では17.8%と着実に増加しています(図1参照)。さらに、令和元年度の報告では、「今年の65歳以上の高齢利用者は、全体で前年度(17,410人)より694人多い18,140人である」と言われており、こちらも着実に増加していることが分かります。また、「65歳以上の高齢利用者の74.8%は施設入所支援に在籍している」と記載があることから、65歳以上の高齢利用者は施設入所支援を利用している割合が高く、入所施設においてはさらに高齢化が深刻化していることが予想されます。

しかし、この段階でひとつの疑問が生じてきます。冒頭で述べた通り、私が入職した7年前から当法人でも高齢化の問題が存在します。当時の入所利用者の平均年齢はまだ47歳、一般的に高齢期とされる65歳にはまだまだ及びません。しかし、高齢化の問題は当時から確かに存在しています。次節ではその理由を筆者なりに解釈し、述べていきたいと思います。

図1.知的障害者の60歳以上の利用者率

※H23~R1年全国知的障害児者施設・事業実態調査報告書より作成

2.知的障がい者の高齢化とは~いつから高齢化が始まるのか~

「老化と早期退行」については「高齢障害者の居住支援の在り方に関する実態調査」3)で報告されており、知的障害者施設において50代で3割、60~64歳で45.9%、65~69歳で57.6%の利用者が老化や早期退行の問題を抱えているとされています(図2参照)。グループホーム等においても、ほぼ同様に50代から年齢が上がるにつれて老化と早期退行の割合が高くなると記載されています。この調査から知的障害者の方は50歳くらいから老化・早期退行による変化に注視すべきであることが示唆されます(ここでは早期退行も加齢による変化と捉え、高齢化の一部と判断します)。また、植田は「知的障がい者の加齢変化の特徴と支援課題についての検討」において、知的障害者の加齢変化の特徴として「身体機能に関して、40歳代後半から急激に落ち込むことがわかっている」と述べており、上記調査と合致していることが分かります。つまり、知的障害者の老化の影響は定型発達者よりも数十年早く表れる可能性があると理解することができます。

よって、知的障がい者の高齢化とは、一般的に高齢期といわれる65歳以上の利用者が増えていることのみならず、加齢による変化が現れ始める40歳代後半~50歳以上の利用者の増加も影響していると考えられます。

図2.老化や早期退行が問題となっている状況(知的障害者施設)※H24時点

図3.老化や早期退行が問題となっている状況(GH・CH事業所)※H24時点

3,まとめ

知的障がい者の高齢化問題は、平成12年(2000年)に国レベルでの検討会が開かれています。それ以降、高齢化率は毎年上がり続けており、60歳以上の割合は1999年で8.8%、現在(2019年)は17.6%となっています。さらに、65歳以上の高齢利用者の74.8%は施設入所支援に在籍していることから、入所施設での高齢化はさらに深刻であることが伺えます。一方で、知的障がい者は40歳代後半~50歳台から高齢化の影響が表れ始め、定型発達者と比較し数十年早いことが分かります。

次回以降のコラムでは、知的障がい者における高齢化の特徴と知的障がい者の高齢化とどのように向き合うのかについて、リハビリテーションの視点から述べたいと思います。
長くなりましたが、ご覧いただきありがとうございました。

 

参考文献
1)平成12年6月 知的障害者の高齢化対応検討会 厚生省
2)平成23年~令和元年 全国知的障害児・者施設・事業 実態調査報告
3)平成24年 『地域における高齢の障害者の居住支援等の在り方に関する調査・研究』報告書1-4 高齢障害者の居住支援の在り方に関する実態調査
4)知的障がい者の加齢変化の特徴と支援課題についての検討 植田 章 福祉教育開発センター紀要 第13号 2016年3月

リハビリテーション部