コラム

施設入所者の栄養管理と給食管理の関わり

直営方式で厨房を運営しているメリットの1つに利用者さんの栄養管理において、多職種連携と食事の個別対応にすばやく対応できるというメリットがあります。
このメリットを活かしてどのように栄養管理と給食管理が繋がっているのか指定障害者支援施設である垂坂山ブルーミングハウスを例に説明します。

【目次】
1.体重(変動の有無)
2.食事を出した量
3.食事を残した量
4.食べた量
5.まとめ

垂坂山ブルーミングハウスでは大きく分けて3つのポイント(体重・食事を出した量・食事を残した量)を見て低栄養状態のリスク評価をしています。
施設の食事は栄養計算されており、バランスの良い食事であることが前提であり、エネルギー必要量の考え方と合わせて説明します。まだ読まれていない方は(厨房コラム~日本人の食事摂取基準2020と四日市福祉会の献立)と(栄養士にとって栄養ケア・マネジメントとは)を読んでいただくと理解が深まると思います。

1.体重(変動の有無)

垂坂山ブルーミングハウスでは毎月利用者さんの体重測定を行っています。体重の変化率や目標体重との比較をしています。

予想より体重が増えていた時考えられること(全てではありません)
・浮腫
・食事の時間以外に食べる習慣がある
・体重測定方法や記録の記載ミス

・必要エネルギー量が減っている

予想より体重が減っていた時考えられること(全てではありません)
・下痢や嘔吐が続いている
・食べている量が少ない
・体重測定方法や記録の記載ミス
・必要エネルギー量が増えている

不明確な点は支援員や看護師、理学療法士、医師などに確認を取ります。1ヶ月以内に起こった生活の変化を聞き取ることで原因が分かることが多いです。

体重が増えていた時

・浮腫→足のむくみが出ている
・食事の時間以外に食べる習慣がある→おやつなどを食べる習慣がある。長期の外出時にたくさん食べている。
・体重測定方法や記録の記載ミス→再度体重測定を行い確認

・必要エネルギー量減っている→骨折等怪我により活動量が減っている
体重が減っていた時
・下痢や嘔吐が続いている→感染症等で消化吸収能力が低下している
・食べている量が少ない→入れ歯や食器、スプーンなどがあわなくて疲れて食べられなくなった。食べこぼしの量が多い。
・体重測定方法や記録の記載ミス→再度体重測定を行い確認
・必要エネルギー量が増えている→長期の発熱などにより必要エネルギー量が増えている+食事が十分に食べられなかった
などが考えられます。

2.食事を出した量

垂坂山ブルーミングハウスの食事は、おかず2種類、ご飯は3種類の組み合わせで食事を提供しています。
食事提供量の把握は盛り付けられた食事の量と献立の数値(重量)が一致しているかどうかが重要です。
ご飯の量は1人ずつ量って盛付を行い、献立の表示通りの調味料を使用し、必要な人数分の食材を正しく発注・納品していることで献立通りの量を提供していると言えます。
さらに、既製品の食材を使用しているときは似たような食材の成分表を使用するのではなく、既製品の成分表を取り寄せて正しい成分表の値を入力していること。野菜は皮を厚くむく等切り方のルールがあるのであれば、施設での廃棄率を計算して設定を変更する。このように献立の精度を高めることで、提供エネルギー量がより正確に算出できます。

3.食事を残した量

垂坂山ブルーミングハウスでは毎食、残食調査を行っており、誰が何をどれだけ残したのか記録しています。普段食事を残さない方は、すぐに食事を残した理由を確認します。不明確な点は支援員や看護師、理学療法士、医師などに確認を取ります。

4.食べた量

食事を出した量と食事を残した量から、実際に食べた量が分かります。この食べた量と体重の変動の関連を調べます。また、管理栄養士だけなく支援員や看護師、理学療法士、医師などから栄養ケア上の課題を挙げてもらいます。体重・食べた量・多職種の連携。この一連の流れがスクリーニング・アセスメント・モニタリングとなります。
アセスメントから原因を追究して対策を考えます。この対策案が栄養ケア計画です。
栄養ケア計画を立てたら計画の実施記録をおこないます。これが栄養ケア提供経過記録となります。

5.まとめ

体重の変動など利用者さんの状態を知ることは重要です。もう1つ重要なことは正しく計算された献立で提供していることです。それは、食事の過不足が正確にわかるからです。日本人の食事摂取基準(2020年版)では成人で短期間に体重が大きく変動しない場合には、
エネルギー消費量=エネルギー摂取量=エネルギー必要量が成り立つとあります。
施設内で生活されている利用者さんのエネルギー消費量を正確に測定できる方法は、現在のところ(二重標識水法)だけですが、この方法による測定は高価であり、特殊な測定機器が必要になるため、他の方法を用いて推定しています。エネルギー必要量の決め方は2つに大別でき、1つは食事アセスメントによって得られるエネルギー摂取量を用いる方法であり、他の1つは、身長、体重などから推定式を用いて推定する方法です。
垂坂山ブルーミングハウスでは施設に入所して間もない場合は推定式を用いますが、施設での生活に慣れてきたら、食べた量(食事アセスメント)によって得られるエネルギー必要量を用います。
何よりも、美味しい食事を提供し、満足してもらい、食事を楽しみにしていただければ、全量摂取は可能であり、低栄養状態のリスクも低下するので、栄養管理と給食管理は密接に関わっているのです。

参考・引用

厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020年版)Ⅱ各論1エネルギー・栄養素
独立行政法人国立健康・栄養研究所:健康・栄養フォーラム